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鰹節屋の昔話
第四十五 話
二代目店主 中野英二郎が語る、戦前から高度成長前夜にかけての、かつお節の話、魚河岸の話、築地界隈の話、東京の話などなど、四方山話を聴いてください
槍を曲げる
30年代のある時期,業界の金融情勢が非常に悪い事がありました。 数軒、倒産しました。
信用の無くなった業者は相対では高値を出されるので(値で断 ると云います),結局入札で仕入れるしかなくなって来ます。与信限度を越えた業者が買えなくするのを槍を曲げると言われていました。
先ずそれに該当するのではと思われる仲卸業者は、一番最初に袖に手を入れて、一番槍 の権利を持ちます。さて落札の発表ですが,その業者の入れた値段を本人に確認の発表をし乍ら、別の落札者に少し高い値段で次の高値を入れた人に落とされます。
この辺の呼吸がわかるので、殆ど自分の入れた値と違っても違うとは云いません。可笑しな事に間違いない値段で品物が渡って来ます。私もそのさくら?に使われたことも屡あり、心苦しく思ったことありますが、必要悪?と黙認して来ました。
若い頃,新米 だった私に、出品の節が置いてある莚の脇で品物の相場を手で抑えて教えてくれたKさ ん、父親の懇意なEさんが槍曲げにあったりすると、ほんとに心苦しいものでした。 何しろ、二人とも買い手の名人と思っていましたから。 残念ながら、二人とも30年代後半に業界から退場になりました。