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鰹節屋の昔話
第三十九 話
二代目店主 中野英二郎が語る、戦前から高度成長前夜にかけての、かつお節の話、魚河岸の話、築地界隈の話、東京の話などなど、四方山話を聴いてください
一本で打つ
その反対(38話に登場するFさん)に、同じ明治生まれIさんは無表情で、高い声でした。殆ど、無駄口をきき ません。入札に参加しはじめの頃、買い人の集まりが少ない時に、Iさんが最初に値を付 けた人に即座に打ったのを見てビックリしました。数量も結構あったのに売り手も買い手も平気なのです。
そして槍のペースの早いのに目を瞠る思いで、若い私は恐くて暫くはその人の槍に参加出来無い程のシヨックでした。
後で当人に聞くと、槍受けの方はこうすると買い人が集ってくるのだと。又、買い人の方は安いのだと自信タップリでした。
暫くして槍受けを番頭にさせる様になりました。
かなり後に初めての頃の話しをして、今なら私も大丈夫ですから是非一度でよいから 槍を受けてと真剣に頼んだことがありました。
とてもとても、今はダメと断られ、私の買い方も一人前に認 められたかなと、自惚れた事もありました。
私が殺し屋の英と呼ばれて居た頃です。
注. |
『槍』とは鰹節の入札の事を指します。 『槍受け』は売り手が買い手から値段の提示を受けて、 最終的な買い手を決める一連の行為を指します。 |