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鰹節屋の昔話
第十 話
二代目店主 中野英二郎が語る、戦前から高度成長前夜にかけての、かつお節の話、魚河岸の話、築地界隈の話、東京の話などなど、四方山話を聴いてください
提灯屋
提灯屋と言うのは、提灯に文字やマークを書き入れる商売、今は看板屋ですかね。
お習字(書道)の時になぞるのを提灯屋と言っていました。
少し高い板敷きの框での仕事、上へ上がって見ていてもなかなか飽きなかったし、
ご主人は子供達を邪魔にせず、よく我慢してくれたものと思います。
今は提灯に書くより、ビラ、看板の類が多いようですが、
戦前は大きな提灯に名前を入れる仕事が多かったのは何故ですかね。
其の隣が氷室、つまり氷屋、この商売も、今、余りありません。
一年中商売していましたが夏には店の奥にある、氷室の前に立ちたいのですが小さい店なので、
此処ばかりは追い出されてしまいます。スイカを食べる時にさえ水道の水で冷やし、氷は使えず、
まして氷の冷蔵庫がない私の家はお客でないのだから仕方ないと僻んで居ました。
でも私の子供の頃に普通の家庭で冷蔵庫がある家を知りません。魚屋とか高級野菜屋とかの、
営業用だったのでしょう。(久保田万太郎の大正10年の小説露芝には、冷蔵庫が出てきますから、
この近辺の家は貧乏だったのかもしれませんが)。
大きな氷を切るのが、これが痛快、20貫(約75キロ)くらいと思いますが、
その大きいのを大きな鋸で一貫目にするのにアット言う間。
一度やってみたいと思っても眺めるだけ。今は市場の中で機械を使ってこまかく砕氷して売って居ます。
氷のもとの大きさは同じ様ですから、あのデカイ砕氷器械に入れるのですかね。
今は何処でも電気冷蔵庫ですから、氷を使う冷蔵庫は無くなってしまった所為なのでしょう。
家庭用の冷蔵庫も製氷皿を使うのから、今では自動的に氷が出来る機種まである時代ですから。
でも、味は昔の氷の方が美味しいような気がします。