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京は橙(ダイダイ)、大阪は酢橘(スダチ)なり
『社長、スダチ、売れてますか?』
去年(2005年)の11月下旬、早朝、店頭に立っていたら、隣(「伊勢龍」さんという乾物屋さんです)の店頭で朝売り(試食販売)をしている営業マンに声をかけられました。
毎年、鍋物のシーズンになると萩のポン酢屋さんが隣の店頭に立ち、行き交う飲食店さんにダイダイで作ったポン酢の販促をしています。声を掛けてくれた彼はもう5年も来ていますから、顔なじみ。どうやら、インターネットで弊店がスダチ酢を売っていることを見たようです。
『まあまあですよ』と答えると、『今度は、ダイダイもお願いします』と、すかさず営業トーク。
もう10年も前なんですが、どうしても自分でお料理屋さんのようなポン酢を作りたくなって、隣(伊勢龍さん)でスダチやらダイダイやらを買って試作しました。結果、スダチで作るポン酢が私の好みだったので、自分で柑橘果汁を売り始める時にはスダチ酢を選んだのであります。
こんな経緯を彼に話したのですが、さすがは敏腕セールスマン、頑張ります。
『確かにスダチも美味しいですよ。実は私だって好きですし、現に大阪ではスダチで作るポン酢の方が主流です。でも、京都では、断然、ダイダイなんですよね。ダイダイは香りにクセがないんです。だから、懐石料理の料理人さんは皆さん、ダイダイを選ばれるようです。』
なるほど言われてみると、スダチは良い香りがします。でも、この香りが邪魔だと言われれば、そうかもしれません。なんせ、ポン酢は脇役ですから。
『なるほどねー、でも、何でスダチかと言うと、一番酸味が少ないからなんだよね。オタクのダイダイ、前に味見したんだけど酸っぱいじゃない。』実は、酸味の少なさがスダチを選んだ理由だった。
『社長、確かにウチのは酸っぱいですよ。』ここから彼の顔つきが真剣になってきた。『実はですねー、業務用で売っているポン酢は、どのメーカーさんの商品も、色々な事情がありまして・・・柑橘果汁だけで作ってるんじゃないんですよ。多くは酢を混ぜて味を調整してるんです。』
やはり専門家の話は聞いてみるもの。柑橘果汁の味は、収穫時期により、かなり違うのだそうです。例えば、ダイダイの収穫期は11月から翌年の1月。当然、1月のダイダイは甘くなる。だらか、100%柑橘果汁で作ると、どうしても味がバラつきます。でも、業務用(飲食店用)ですから、お客さんは同質の味を求めます。
そこでポン酢屋さんは、酢を混ぜる事で均一な味のポン酢を供給していたそうな。大手醸造酢メーカーが作ったポン酢が先に世の中に出まわり、その味に慣れた人が多かったので、より酸っぱいポン酢になったようです。まあ、お酢が果汁より安いのも、もう一つの理由だそうですが・・・
『だから、市販のポン酢はどうしても酸っぱくなるんですよ。でも、ダイダイ100%ならホント甘いですから・・・』そう云われるとダイダイ酢を売ってみたくなる。
『じゃー、今度ついでの時に、100%ダイダイを持ってきて下さいよ。』とお願いしたのですが、世の中、そう単純ではなかった。
『ハイって言いたい所なんですが、100%ダイダイ果汁で半年も賞味期間がある商品なんて、正直な話、我々クラスの設備じゃ、とっても作れません。賞味期間2週間なら、出来ますが・・・』
リンゴの果汁がすぐに変色するのが典型ですが、柑橘果汁は、元来、傷みやすい食品です。ですから、保存料を加えることで、瓶詰めの柑橘果汁は賞味期間半年の商品となっています。
保存料としてパラオキシン安息香酸や塩が使われています。塩なら聞こえがいいですが、ある程度の量を入れねば保存料の役目を果たさないので、果汁の味が変わってしまう。
弊店の「すだち酢」を作っている農協さんのように、立派な設備を持っていれば、無添加の柑橘果汁を作れるのですが、普通のポン酢メーカーさんではそこまでの資本力がありません。
ちなみに、農協さんも、なぜか無添加のダイダイ酢は作っていません(ダイダイが一番弱い果汁らしい)。
『そーね、できれば混ざり物が一切無い果汁を売りたいよねー。』とつぶやくと
『社長、実は、色々と事情がありまして・・・来春には、私、独立するはめになりそうなんです。その時は、ちょっとアイデアがありまして、無添加の100%ダイダイを商品化できると思いますから・・・それまで待ってください。』と営業マン君。
『分かりました、期待して待ってるから、来年の夏には見本を持ってきて下さい。』と答えたものの、実はあまり期待はしていなかった。
ところが、今年の9月、『いしんフーズ 代表取締役 金高哲也』の名刺を携えた営業マン君が無添加ダイダイ酢を手に、弊店に現れたのであります。
『冷凍なんですが、正真正銘、無添加の100%ダイダイ酢です。混ぜ物は一切無しで、賞味期間は1年。小売用でも業務用でも冷凍の100%ダイダイを商品化したのは日本でウチだけですから。』
金高さんが持ってきたのは冷凍品でした。弊店には冷凍品を置いておく設備がありません。困った顔をしていると『社長、とにかく一度味を見てください。御社が冷凍品を扱いにくいのは承知してます。もし味見して、味を認めて頂けたら、ウチから御社のお客様に直送もしますから・・・お願いします。』
義を見てせざるは勇なきなり。顔なじみの若者が自信を持って開発した新商品を片手に独立したのですから、応援せねば男がすたる。販売方法を考えるのは後回し。早速、解凍して味見です。
確かに甘い。市販のダイダイ酢とはまるで別物。先シーズン最後の一番甘いダイダイだそうですが、これならジュースとしても飲めるかも。
さて、肝心のポン酢です。比較のためにスダチのポン酢も仕込み、待つ事2週間。スダチの方は寝かせ時間が足りないせいか、口に入れると先ずは酸味を感じます。ダイダイは先に醤油の味がして、次に、ほのかな酸味が口に広がる。半年間寝かせたスダチポン酢に近い、実にまろやかな味だった。これなら懐石料理の方々が選ぶのも頷けます。
この瞬間、ダイダイ酢の販売を決めたのであります。
かくして、いしんフーズさんの作った無添加の100%ダイダイ酢『旬凍だいだい酢』を今シーズン(2006年11月)から取り扱っております。『旬凍だいだい酢』は冷凍品ゆえ、いしんフーズさんより直送になります。
さわやかな酸味のスダチとまろやかなダイダイ。もうこれは良し悪しではなく、好き嫌いの問題です。お好みに応じて使い分け、または、ブレンドして、今年の冬もマイポン酢をお楽しみください。
2008年秋、いしんフーズさんが最新設備をもっている協力工場さんと提携をして 常温で保存できる、無添加の100%だいだい酢の生産を始めたので、以来、弊店でも常温のだいだい酢を販売しています。
2019年、いしんフーズさんが「だいだい酢」の製造を終了したので、現在では、山口県萩市にある柚子屋本店さんが製造した「搾り橙」(同じく100%ダイダイ果汁)を販売しております。