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海苔の酸処理って、農業で言えば農薬のことです
こんな話を聞いたのは8年前でした。
某百貨店で長年にわたり食品に携わってきた方に、今や幻となってしまった「アサクサ海苔」について教えを請うた際に、この酸処理の話を、生まれて初めて聞いた次第です。
ちなみに、現在、流通している海苔の99%はスサビ海苔という種類でして、アサクサ海苔は絶滅危惧種、今や「幻の海苔」と呼ばれています。
酸処理とは、海苔を養殖網ごと「酸性の液」に浸し、再び海に戻す方法。これで海苔の病気を予防しているのですから、まさに海苔の農薬です。
現在は、この酸処理を施して育てられる海苔がほとんどになってしまったそうですが、世の中捨てたもんじゃありません。酸処理をしない海苔を頑張って仕入れ販売している問屋さんがいらっしゃいます。
そして、その方なら、幻になりつつあるアサクサ海苔の養殖も応援していると聞き、「将来、私にその問屋さんを紹介してください」とお願いして、8年前(2004年)の海苔談義は終わりました。
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海苔養殖の歴史をざっと申し上げます。
江戸時代から行われている海苔養殖、その昔は海苔の生態が判らなかったため、経験則だけが頼り。実に不安定な生業だったようです。
それが、戦後、海苔のライフサイクルが解明され、現在の養殖法が確立され、養殖可能な地域が広がり生産量も増えたのですが・・・
ひとたび海苔に病気が発生すると生産量がガクッと落ちる。
特に昔から養殖されていたアサクサ海苔は病気に弱いので
昭和40年代から、病気に強いスサビ海苔が全国的に養殖されるようになりました。
それでも病気の被害が甚大なので、登場したのが酸処理。
病気予防法としては、実に効果的です。
昭和60年代より、この酸処理が全国に広まり、その上、この技法の導入で
海苔養殖の生産性が飛躍的に高まったので、海苔の供給量は格段に増えました。
しかしながら・・・例によって、新技術によって供給量が増えると、味が落ちます。
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塩も醤油も酢も、同じ構図。
大量生産によって出来上がった塩は「塩辛い」だけ。
醤油は「塩かど」がきついし、米酢は「ツン」とします。
作った米酢はツンとしない |
食品を短期間に大量生産させる新技術は、食品の供給を大量に増やし、価格を低下させたので、高度成長期の食卓を支えたのでありますが・・・新技術には陰の部分もあります。
いつしか、「塩辛いだけの塩」、「塩角がきつい醤油」、「ツンとする酢」が日本のスタンダードとなってしまいました。
今では、昔ながらに手間暇と時間をかけて仕上げた「真っ当な食材」は、売れなくなり(「価格が高い」これが一番の理由だと思いますが)、絶滅危惧種の食品になろうとしています。
これは、ある意味、日本人の選択ですから、仕方ないと思うのですが・・・
せっかく、先人が作り方を編み出した本当に旨い「真っ当な食材」を、何とか子や孫の世代に残したいと、伏高は思っていのであります。
話が横道にそれてしまいゴメンナサイ。海苔の話に戻ります。
海苔養殖の現場に酸処理が導入されてしばらくすると・・・
海苔って本来、淡い甘みがある食品なんですが、
気がついてみたら、味も素っ気もない海苔ばかりになってしまってた。
おまけに、酸処理をした海苔は、より黒く仕上がるので、パッと見、世間の評判が良い。
だからコンビニのおにぎりには、もってこいなんですね、コレが。
当然の帰結として、大変残念ですが
酸処理をしない昔ながらの養殖法で海苔を育てる方が激減してしまったのであります。
支柱に張った養殖網が引き潮時に海上に姿を 現しますこの時、網を太陽にあてるのが干出 (かんしゅつ)。昔ながらの病気予防法です。 |
弊店の通販も始めてから10年が経ちましたので、そろそろ扱い品目の幅を広げようと考えております。
昨年(2011年)の梅干に続き、今年(2012年)は長年売りたいと思っていたアサクサ海苔を販売せんと、8年前に教えを教えを請うた某百貨店の方にお願いして、昨年秋、冒頭で話した問屋さんを紹介していただきました。
今年(2012年)2月、九州の海苔養殖現場に同行させていただいて、海苔をむしゃむしゃ食べてきましたが、普段食べている海苔との味わいが段違い。口溶けは良いは、甘みはあるは・・・驚きと感動の連続だった。
世の中から消えつつある「真っ当な食材」はお客様に紹介せねばなりません。
かくして、「干出(かんしゅつ)だけで育てた初摘み海苔」の新発売となった次第です。
すいません、アサクサ海苔は生産量が少ないので、まずは、今年、酸処理をしていないスサビ海苔(一般的に流通している種類の海苔)を販売します。
佐賀有明の製造家が、酸処理をせず、その代わりに手間暇かけて、きっちり干出して育てた海苔。
有明の海苔の中でも、とびきり太陽と潮風の恵みを受けている初摘みですから
柔らかくて口溶けが良い、そして甘みがある海苔に仕上がっています。
この機会に、ぜひ一度、ご賞味ください。
築地仲卸 | 伏高 | 三代目店主 |