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本節を斜めに削ると・・・
この夏(2005年8月)、日本橋の某同業者(鰹節屋)が、突然、弊店まで遊びに来た。
なんでも河岸の中に用があったので、ついでに立ち寄ったとの事。喉が渇いたんで、
冷たいお茶を飲みたかった・・・実はこれが目的だったようです。
てな訳でして、お茶を飲みながら雑談とあいなりました。
テーブルの上に、たまたま「本職用鰹節削器」が置いてあったので、自然と削器の話となった。
私 |
『知らなかったんだけど、大工が使うようなカンナと鰹節削器に付いているカンナは、値段から何から、全然違うんだってね。 鋼が違うらしいよ。 で、その大工用のカンナの刃をつけた削器を作ってもらったのがコレでさー、 自分でもビックリしたんだけど、ホント、削りやすいんだよね。』 と「本職用鰹節削器」の話をすると、 |
同業者 |
『へー、ちょっと削らせてよ。』 店から本節を一本持ってきて渡すと、シャシャっと削り始めた。 この音なら綺麗に削れているに違いない。 引き出しを開けてヒラヒラの状態を確認しながら |
同業者 |
『これなら削りやすいねー。』 と彼も感心した様子。 |
同業者 |
『昔、二枚刃の削器があったの知ってる?』 と道具好きな彼らしい話を始めた。 |
私 |
『聞いた事あるけど、二枚刃じゃ、力が余計に必要で、意外と削りにくかったんじゃないの?』 などと思いつきで、適当にコメントすると |
同業者 |
『じゃー、刃が斜めについている削器ってーのは知ってる?』 ときたもんだ。 正直な話、刃が斜めについている削器は初耳だった。 ここは彼の能書きを聞かねばなりません。 |
同業者 |
『あのさー、大工ってカンナをかける時、まっすぐは引かないじゃん。
こーやって、ちょっと斜めにして引くでしょ。』 とカンナをかける真似をしながら説明してくれました。なるほど云われてみるとその通り。 |
同業者 |
『なんで大工が斜めに引くかと云えば、やっぱ、この方が削りやすいんだよね。
で、鰹節の削器も原理は同じでしょ。 大工はカンナを動かすけど、鰹節の場合はカンナを下に置いて鰹節の方を動かして削るところが違うけど・・・ そこで、刃を斜めにつけた削器が作られた訳よ。』 なかなか理路整然とした説明だった。 |
同業者 |
『でも今、そんな削器、どこも作ってないじゃん。だから、
もしかすると斜めに(刃を)付けても、削りやすくなかったのかなー』 最後は、なぜか自信がなさそうな話となってしまった。 |
日本橋の同業者が帰ると、すぐに小椋さん(弊店で扱っている削器の製造メーカーさんです)に電話をしましました。 ここは、専門家の話を聞くのが一番です。
小椋さん |
『えー、ウチでも刃を斜めに付けた削器を作った事がありますよ。 ○○○(同業の屋号)さんが云われたように、削る物に対してカンナを真っ直ぐに当てるのではなく、 ちょっと斜めに当てる方が削りやすいんですよ。』 ここで日本橋の彼の話の裏が取れた。 |
小椋さん |
『何台か売ってみたんですけど、結局は失敗だったんです。いやー原理的には正しいんですよ。』 どうやら、物理学だか力学だかを超えた所に理由があるようです。 |
小椋さん |
『我々が刃を斜めに付けるまではいいんですが、いざ、お客さんがカンナ刃の出具合を調整しようとすると、
どうも丁度いい具合に調整できないんですね。 台に対して斜めに刃を入れて、台の頭やお尻を叩いて調整するんですけど、 刃の左右を均一に出す事がとっても難しいんですよ。』 生まれついての不器用な私です、真っ直ぐ付けた刃だって、左右を均一に調整するのは難しいのに、 ましてや、斜めに付けた刃の調整なんてできる訳がありません。 と、ここまで聞いて納得はしたんですけど、一つ疑問が湧いてきた。 |
私 |
『小椋さん、話は分かったけど、例えば、カンナの刃を斜めに付ける代わりに、鰹節を斜めにして削ったらどうなんでしょうねえ?』 我ながら鋭い事を思いついた。 |
小椋さん |
『そーなんですよ、その(刃を斜めにつけた)削器で失敗した後に、私も気が付いたんですよ。 たしかに斜めに削ると鰹節は削りやすくなるんです。でも、台が狭い削器だと、斜めに削る事自体がやりにくいんですね。 まあ、昔は安くて小さい削器ばかり作ってましたから・・・ 今、伏高さんに売ってもらっている削器なら台が広いから大丈夫だと思いますよ。』 |
百聞は一見に如かず。早速、試してみました。
確かに、本節を(亀節でも同じですが)斜めに削る方が削りやすい様です。
もっとも、シャカシャカ削っている内に、削られている面が摩擦熱で温まり、少し柔らかくなるので、
そこまでになれば、斜めだろうと真っ直ぐだろうと削りやすくなるのですが・・・
毎年、冬場になると空気が乾燥して、鰹節が削りにくくなります。
そんな時は、ぜひ、一度、鰹節を斜めに削ってみてください。
ちょっと削りやすくなったところで頑張って削り続け、摩擦熱を起こして節を柔らかくするのです。
今年の冬は、ぜひ、本節を斜めに削ってみてください。