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かつおダシの酸味の正体は・・・
乳酸なのであります
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「 不思議なもんで、沸騰した時点じゃなくて、
火を止め、ひと呼吸おいてから、
かつお節を入れた方が、
旨い一番ダシになるんです 」
これは、弊店のお客様である大ベテランの料理人さんに教えていただいた『一番ダシの極意』。
要するに、100℃のお湯ではなくて90℃あたりのお湯にかつお節を投入するとお吸い物には最適なダシがとれる、こんな話でございます。
確かに、この方法でダシを取ると、香り高い琥珀色のダシ汁が出来上がり、そのまま口にすると、雑味が全く無い、芳醇かつスッキリとしたかつお節の旨みが舌の上に広がるのですが・・・
事実は小説より奇なり。
極意通りにダシをとっても、
なぜか酸っぱいダシになってしまう場合があります。
同様の経験をされた方も多々いらっしゃると思いますが、
コレはダシ取り方問題ではなく、明らかにかつお節の問題です。
カツオの身は弱酸性だそうですから、元来、
かつお節は大なり小なり酸味があるのですが、許容度がある。
そこで、酸味の原因を製造家、何人にも聞いたのですが、
皆さん「分からない」とおっしゃる。
弊店では毎朝、削り節のダシを取り、品質チェックをしていますのですが・・・同じロットの節でも、たまーに、酸っぱいダシになることがあるのです |
もしかしたら節の原魚であるカツオの違いにヒントがあるかも、
と思い、店頭の削り節を毎日、味見したところ・・・
日本近海でとった生カツオでも、
南太平洋で一本釣りされ冷凍カツオでも、
南太平洋で巻き網で獲られ冷凍カツオ
(この3者、並び順に鮮度が落ちていく)でも、
時として、酸味が強いかつお節が出来上がる。
弱ったことに、同じロットの節でも、
酸味が強い節と弱い節が混在するので、
何が何だか分かりません。
ハッキリ言ってお手上げ状態だったのですが、
捨てる神あれば拾う神あり。
業界団体の会合で東京海洋大学で
鰹節の研究をされている先生が講演にいらしたのです。
講演終了後、質問タイムが始めるやいなや、傍若無人な私は、
「 酸っぱいダシが出る節があるのですが、
製造家に聞いても原因が全く分かりません
何か思い当たるふしはありますか? 」
と質問したのであります。
すると先生、
「 おそらく酸味の原因は乳酸です 」
と明快に応えてくださった。
人間も運動して疲れると筋肉に乳酸が溜まり、
回復すると乳酸も分解される
こんな話をお聞きになった事があると思います。
全身筋肉の様なカツオも同様でして、
漁師に釣られた直後から命が尽き果てるまで、
大暴れすればするほど体内に乳酸が溜まるらしい。
死んでしまったカツオの乳酸は分解されないから、
そのままかつお節に加工され、酸っぱい鰹節に出来上がってしまう。
このような図式です。
つまりカツオの漁法や節の製造方法ではなく、
個別のカツオの状態によって酸っぱくなる訳ですよ。
だから、原因の推測すらできなかったのでしょう。
早い話が、
「 漁獲されてから命を落とすまで
大暴れしたカツオが酸味の強い節になる 」
のですが、残念ながら、
水揚げされたカツオを見て、どれが大暴れしたカツオかどうかを
製造家が見分ける方法はありません。
ましてや、自分で仕入れた鰹節を見ただけで
酸味の強い節を見分けることは出来ません。
ほんと、自分で言うのも情けない限りです。
だから、本当に申し訳ないのですが、
「 酸味の弱い鰹節だけをお届けします 」
なんて事、約束が出来ないのであります。
ですから、知らず知らずの内に、
酸っぱい削り節をお届けしていたと思うのですが、
不思議なことにプロの料理人様から
「 この間の鰹節は酸っぱくて使えなかった 」
というクレイムは一度も受けたことないのです。
思うに、板前さんはダシだけの味見はしないで、
醤油や塩で味付けをして味見するので、
たとえ酸味が強い鰹節でも、
クレームになるほどの味にはならないのでしょう。
鰹節屋を生業とする者として、お恥ずかしい限りではございますが、
酸味が強い鰹節を見分けることはできません。
ですから、ダシだけを味見すると
酸味が強い節をお届けしてしまうかもしれません。
その時は、大変恐縮ではございますが、
塩や醤油などの調味料で味をつけた上で、
その善し悪しをご判断いただきたく存じます。
もし味をつけても酸味が強くて使い物にならない場合は、
その旨をお知らせください。
商品の交換等の対応をさせていただきます。
何とも情けない話ですが、
酸味については対応に限界があることを
ご理解をいただければ幸いです。
伏高では、酸味の無い鰹節を販売すべく
毎朝、店頭にて「利きだし」をして
品質のチェックをしています。
築地仲卸 | 伏高 | 三代目店主 |
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