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干貝柱にも旬がある
2006年8月8日の昼、稚内空港に降り立った私は、レンタカーを借り、オホーツク海を左に見ながら国道238号線を走りました。
目指すは枝幸(えさし)。枝幸漁協が運営している干貝柱工場を見学に訪れたのです。実直そうな工場長さんに出迎えられ、挨拶をすると、なんと工場長さんも私と同じ中野さんだった。
早速、見学開始です。先ずは、干貝柱の原料となる「生のホタテ貝」の保管庫に案内されました。
室温10℃に保たれた保管庫で、クラッシュアイスに囲まれたホタテ貝は一晩過ごします。
獲れたてのホタテ貝をすぐに加工すると、貝へのショック大きすぎて、身割れを起こしやすいので、一晩、保管庫に寝かせるとの事でした。
保管庫で動いているホタテ貝を見ながら、工場長さんに質問しました。
『 ホタテ貝の漁期はいつなんですか? 』
オホーツク沿岸で養殖されているホタテ貝にも漁期があるはずです。
『 4月から10月です 』と答えが返ってきた。
『 流氷が運んできた沢山のプランクトンを食べて、
栄養満点になったホタテを獲るんですね 』
と、にわか知識をぶつけてみたのですが、実際は、そんな単純な話ではなかった。
『 ホタテは4月から卵を持つのさ。だから、せっかくの栄養も身にまで
回らないんですよ。5月、丁度、こっちでは桜が散る頃に産卵するから、
それから身に栄養が付くのさ 』
工場長さん、こんな口調だったと思うのですが・・・北海道の言葉には疎いので、
実際は違ったかもしれません。
工場長さんの話によると、産卵後のホタテは、栄養を身に蓄え大きくなる。
そして、7月から8月中旬にそのピークを迎え、それ以降のホタテはまた痩せ始めるとの事。
ですから、7月・8月のホタテ貝を原料とした干貝柱が栄養満点、
つまり、一番旨いのであります。
生のホタテ貝を水分量が15~16%の干貝柱になるまで乾燥させるのに
1ヶ月半から2ヶ月必要ですから、夏場のホタテが干貝柱として仕上がる時期は
9月から10月ということになります。
『 だから、我々はこの時期(7月・8月)に出来るだけ仕事して、
美味しい干貝柱を在庫するのさ。 』
と工場長。
『 てーことは、9月・10月が干貝柱の旬ってことになりますね? 』
と私が聞くと
『 その時期のヤツが一番旨いから・・・旬と云われれば旬ですね 』
どうやら、干貝柱は加工品なので、工場長さんには旬という意識は無かったようです。
その後、乾燥工程を見学し、やっぱり干貝柱の旬は9月・10月なのだ
と確信したのであります。
『 貝柱は天日で干せば干すほど味わいが
深くなるって云うか、不思議なもんで、
旨味が長続きするのさ。 』
実は北海道を訪れる前に
『 口に入れて、長い時間、旨味を感じる干貝柱
があったり、すぐに旨味が消える干貝柱が
あるけれど、何が違うのでしょうか? 』
とお客さんから質問を受けていました。そこで、この質問を工場長さんにしてみたら、その違いは天日干しの回数だと教えてくれた。
気温の関係もあり、天日で干せるのは夏場にかぎるそうですから、9月・10月には、旨味成分が多く、その上、その旨さも長く持続する干貝柱が仕上がるのであります。だから、干貝柱の旬は9月・10月なのであります。
天日干しの話にはその先があります。
実は、天日で貝柱を干せるような気象条件が整うのは、年間でわずか25日しか無いのだそうです(天日で干せない日は乾燥機を使います)。
天気が良くても、風が強いと貝柱が急激に乾燥してしまい風味が損なわれるので、風が穏やかな日にしか干せません。
また、干貝柱は毎日、連続して干せば良いのではありません。
干してはしばらく休ませて、徐々に徐々に全体を均一に乾燥をさせないとダメなんです。
だから、夏場に作ったからといっても、
全ての干貝柱が天日で何度も干されている訳ではありません。
乾燥とあん蒸(貝柱を休ませて、中心部にある水分を表面に出させる工程)のタイミングと
気象条件の折り合いが悪ければ、極端な話、天日で一日も干せないで仕上がってしまう
可能性もあるのです。
ですから、旬の干 貝柱でも味の持続力にバラツキがあることはご理解ください。
貝柱を見ただけで天日で干した日数を判断する事は難しく、また、干貝柱は漁連を通しての
流通になっておりますので、製造家から特定の干貝柱だけを仕入れる事は、事実上、できません。
この(2006年)8月は枝幸から羅臼を回り帰ってきました。
3日間で600キロも一人で運転するハメになり疲れましたが、その甲斐あって、
収穫も沢山ございました。
干貝柱の製造の事や羅臼の浜で漁師さんに教えたもらった事等々、
お話したい事は山ほどあるほですが、それは次の機会ということで。
先ずは、干貝柱の旬についてご報告申し上げます。