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黒川 春男

築地の風景

by 築地本店店長、黒川春男

2011 17

もう六月、あれからもう三ヶ月近く経った。あっという間に。ピリピリしていた緊張が解け、ふと、あの地震は夢だったのかと、脳天気な事を想ったりする余裕が戻ると、今までなりを秘めていた身体の不具合が露見してくる。酒量の増えた分、胃がムカムカ、消えていた歯茎の痛み、更に、肩・肘の痛みまでズキズキ。

 

そんな時に限って、田舎から御節介な電話がかかってくる。「ニュース・ポスト・セブンに、南関東大地震が来るって書いてあったけど、はよパソコンで見てみないな」とか、「京都大学下川教授の本を買って読んでみない、放射能がすごい事になっとるけぇ」とか、「近くのクライン・ガンデル(貸別荘・農園付き)を予約してあげるけぇ、はよ移住の準備しない」とか。こちとらの事情はちっともお構いなし(島根にも原発あるだろうにと思ったが)。それにしても、いくら店が暇だからって、よくもあれやこれや調べられるもんだと感心する。勝手な事ばかりを言いやがってと思うが、帰る故郷があるのが、こんなに幸せな事なのかと気づかされた。

 

故郷が消滅した福島の人達の苦悩を想うと胸が潰れる。穏やかに続く筈だった生活,仕事、収入、子供達の教育を根こそぎ絶たれ、放り出された。この先、数十年、いや生きて故郷に戻れないお年寄りがいるのは、誰の目にも明らかなのに。なしくずしに難民生活を続けさせる気なのか。棄民そのものだ!!

 

たった一度であっても、汚染水を海に流せば、この先どれだけ人々を苦しめ続けるのか、想像を絶しろ。伏高にかかってくる問い合わせの電話、放射能の心配が多い。九州、五島列島の塩は大丈夫かといった、首をかしげる質問もあるが、お客様の海の汚染に対する不安は、それ程、深刻なのだ。

 

先日、NHKでプラシド・ドミンゴの来日公演の再放送があった。震災後、周囲の反対を押し切って、恩義ある日本に御返しをしたいと予定通りの来日。パバロッティが亡くなり、カーラスと二大テノール歌手となったドミンゴ。正直、地味で、今ひとつ華がなかったのに、この日は光り輝いていた。会場はスタンディング・オベーションの嵐。最後のカーテンコールが日本語で歌う「故郷」だった。兎追いしかの山、小鮒釣りしかの川・・・「うつくしま、ふくしま」東北の野山を想い、胸が詰まる。今までの人生で聴いた、最高の「故郷」だった。

 

山は碧き、水は清きふるさとを取り戻す為に、長い戦いが待っていようと、粘り強い東北人ならやってくれます。二度、訪ねた事のある会津若松城、今年、戊辰戦争で焼け落ちる前の赤瓦へと葺き替えられたばかり。その勇姿を見届けに参ります。日本人皆の故郷なのだから。

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