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黒川 春男

築地の風景

by 築地本店店長、黒川春男

2011 22

三月十一日午後二時四十六分に、悪夢が、突然、襲ってきた。仕事から帰り、いつもの様に肴をつつき、一杯始めようとしたした時だった。グラッと揺れた。やがて揺れは激しくなる。立てかけていた絵が落ち、花瓶、壺がガシャと床に散る。テレビの画像が途切れた。建物が軋む音が恐怖を更に煽る。

 

パジャマの上にダウンを羽織り、二人して玄関の鉄の扉を開けると、街中のビルがグワーングワーンと叫び声を上げている。非常階段を駆け下りて地上へ。揺れが長く続く。猫達が心配になり、揺れが治まったと思って八階へ戻ると、また揺れ出す。三、四回上ったり下りたりを繰り返し、やっと猫達を発見。浴室のタオル置き場で身を寄せ合い震えていた。

 

和室は積み上げた本とDVDのケースが見事に落ちて足の踏み場もない。また揺れる。 地上に戻ると同時に携帯が鳴った。田舎からの安否の電話だった。「震源地は何処なんだ!!」と訊くと、三陸沖だという。東北の地震で、何で東京がこんなに揺れるんだ。余程でかい地震だったのか。目の前の五十階建て高層ビルが、ゆっくりと揺れている。目を疑ったが、確かに揺れている。

 

三十分位、外にいたのか我が家に戻り片付けながらテレビをつけるが真っ暗なまま。こんな時にテレビ局は何をしてるんだと悪態をつく。否、さっきテレビの台が大きく動いたから。案の定、アンテナのプラグが外れていた。やがて地震の映像が、津波が町をのみ尽くす画面が。余りの酷さに、身が凍り付く。やがて福島の原発の不具合も。

 

あれから一ト月以上経ち、パタッと人影が消えた築地の街に外国人、日本人観光客、買い物客も少しずつ戻ってきた。震災前に道を埋め尽くす人波はないけれど。 自粛の連鎖を断ち切り、縮こまっていた日本経済を立ち直らせなければ、東北の被災者の方達を援助できないのだから。どんどん生きた金を使いましょう。自分に出来ることをやるしかありません。

 

被災した人々の打ちのめされた姿に、胸がつぶれる思いです。慰めの言葉なんか、何の役にも立たず、手を合わせるしかない。「全部なくなってしまって、生き延びたのがいいんだか、悪いんだか・・・」と沈む老婆。どうか助けに甘えて下さい。

 

「暗すぎて、今まで見たことのない位、星が綺麗だよ!! 仙台のみんな、上を向くんだ!!」と「PRAY FOR JAPPAN」のWEBに投稿している被災者からの呼びかけに、私が逆に勇気をもらおうとは思ってもみなかった。つながれ、日本。 つながれ東北!!

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