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築地の風景
by 築地本店店長、黒川春男
2010 年4 月23 日
先月の最後の日曜日、東京の桜はまだどこも寒さで蕾を固く閉じたままだったが、待ちかねて花見へ。 かねてから行きたかった小石川植物園が頭に浮かんだ。さっそく大江戸線で飯田橋駅へ。しばらく歩いて正門に。
扉に前のタバコ屋で入場券(三三〇円)を買えとある。何でタバコ屋なのか? この植物園の正式名は「東京大学理学系研究科付属植物園」と長ったらしい。金儲けにはアンタッチャブルです、とでも言いたいのか。入口でもらった無料の小冊子を読むと、元は五代将軍綱吉が将軍職に就く前の別邸跡で、八代吉宗の時に映画「赤ひげ」の舞台となった小石川療養所が設置され、明治になって東大に。
入場者も疎らな園内は、外の喧噪がまったく届かず、ゆったりと歩ける。正門から坂道を昇り、明治を彷彿させるアールデコ風の本館前を過ぎると、桜並木が広がる。桜は三分咲きくらいだろうか。ちらほらと花見客。家族連れが多い。ベンチに腰掛け、しばし花見。原則、飲食禁止、禁煙だから、酔客は皆無だ。それにしても、ここに居並ぶ樹齢百年を超す染井吉野の桜達は皆、幹の張りといい、自由奔放に伸びる枝振りといい個性派揃い。絵心がある人なら、描かずにはいられない見事さだ。染井吉野という品種が、江戸時代、この近くの染井村で生まれたのも一興。満開の花を付けたらさぞやと想像しながら、席を立つ。花見には穴場中の穴場だ。
奥の森が気になり、さらに進む。ボダイジュ、スズカケノキと名札の付いた巨木の林。カリン林を抜け、針葉樹の群生する薄暗い森に入るとワープで瞬間移動したかの様な錯覚に陥る。踏み締める厚く堆積した落葉のクッションが心地よい。見たこともない巨大な松ぼっくりに驚く。木漏れ日の中を森を抜け、高台の東屋に昇ると視界が開け、眼下に庭園が広がる、赤レンガの洋館脇をくねくねと下る。本格的な日本庭園だ。手入れが行き届き、清々しい、庭の背後に立ち上がる森が圧倒する。
名残の花を付けた梅林を抜け、芽吹いたばかりの花菖蒲園を抜け、再び正門へ。入った時は居なかった女子大生達が、押し花のハガキやカタログを売っていた。予想外の大収穫に気分は上々、思わずカタログを購入。
歩いてすぐの六義園に向かうが入場券を買う人の波にパス。JR駒込駅付近を散策。かなり前、この近くの大学の出版部に勤めていた、うちのやつ、久し振りに来て、様変わりした町並みに仰天。唯一覚えがあるアルプス洋菓子店で、昔と変わらぬ懐かしいシュークリームをお土産にして家路についた。