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築地の風景
by 築地本店店長、黒川春男
2009 年10 月23 日
もう十月だというのに、真昼のぎらぎらした日差しに辟易。なので、気持ちのいい早朝にウォーキングに出発する。いつものコース。晴海大橋を渡り、豊洲から有明を抜け、お台場へ。お台場のガンダムの立っていた広場は塀に囲まれ、起重機が頭をのぞかせる。一面緑だった草っ原は茶色く禿げ上がり、いかに多くの見物客が訪れたか一目瞭然。
船の科学館駅からゆりかもめに乗り、終点の豊洲駅で下車。エスカレーターを下りてすぐにあるイートインのパン屋さんで軽い昼食。そして、ららぽーと豊洲へ。そのショッピングセンター三階にユナイテッドシネマ豊洲がある。いわゆるシネコンだ。十二のスクリーンで、邦画、洋画、アニメまで複数上映している。十年以上、いやそれ以上、映画館にはご無沙汰でした。もっぱらレンタル一筋でしたから。
でも、この映画だけはレンタル開始を待ち切れず、参上。その映画とは『火天の城』。「一緒に見る?」と誘ったのに、「お城の話なんて」とばっさりパスされる。ひとりぼっちはつらいぜ。一般料金は千八百円。高けぇー。シルバー割引千円には、ちと歳が足りぬ。残念。
『火天の城』は直木賞作家、山本兼一の原作の映画化だ。戦国乱世の英傑、織田信長が見いだした熱田神宮の宮大工、岡部又右衛門に「安土の山一つを城にする。天主は五重。三年で建てろ!!」と命ず。当時、空堀、土塁、二重の館が主流だった城を、安土山全体を覆う様な大規模な石垣で囲い、更に、信長が創造した『天主』という五重の高楼を築けとは不可能に近い。その不可能を可能にしていく総棟梁又右衛門の悪戦苦闘する姿が、このドラマの主軸である。
主役、又右衛門に西田敏行、その妻、田鶴に大竹しのぶ、信長に椎名桔平というキャスト。三人共好きな役者ではなかったが、役柄がピッタリ嵌って出色の出来栄え。他の配役にはタレントだらけでミスキャストが多い中、何度もジーンと来る場面も。
信長が命ず難題山積に腐る又右衛門は、それでも夫に笑みを絶やさぬ田鶴を見て、「馬鹿にするのか!!」と茶碗を投げつける。謝りながら「女に笑みがないと家に日は昇らずと父に育てられました」と泣く大竹しのぶのドアップした顔。こちらも貰い泣き。こんなキラキラ輝く台詞がドラマの厚みを増す。
しかし何といっても、CGとはいえ、時間と共に形をなし吃立していく安土城の威容に圧倒される。何万もの木の部材が、樹齢二千年の檜の親柱を核に組み立てられ、天主に変容していく課程がリアルだ。木を敬い愛でながら見事な木造建築を創造する日本の職人技に拍手だ。
私にも木に特別な感情を持つ日本人のDNAがありました。又右衛門が木曽の山奥で、やっとのことで出会った御神木を抱きながら男泣きした様に、黒ネコも大きな樹に会いに行きたくなりました。とりあえず、皇居東御園の大クスノキをハグしにでも。