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黒川 春男

築地の風景

by 築地本店店長、黒川春男

2007 10 19

毎朝、築地の店に届く朝刊には、特に金曜日、土曜日、どっさりと新築マンションの折込広告の束。有名俳優を広告塔に起用した、豊洲・有明地区の物件が多い。

 

確かに、築三十年経った我が家のマンションから望む対岸の豊洲・有明には、ニョキニョキと、競うように天をめざす高層マンションの群。ディズニーランドの夜八時の花火は、今ではビルの谷間にチラッと覗き見できるだけ。

 

ちょっと前のテレビ番組で、豊洲の運河(キャナル)に囲まれた、高層マンションに移ってきた新セレブの奥様を『キャナリーゼ』と呼び、その旦那の勤め人を『キャナリーマン』と呼ぶと紹介していたが、思わず笑ってしまった。

 

そのキャナリーゼが子供達と昼間に集うのが、キャナリーゼ御用達のつば広帽子、サブリナパンツ、イタリア製のベビーカーを売る『ららぽーと豊洲』。その三階にある『キッザニア東京』。時々、その隣の紀伊国屋書店を覗くとき、前を通るのだが、いつも長蛇の列。予約は半年先まで一杯らしい。いわゆる子供(二歳から十二歳まで)向けの職業体験施設だそうだが、親の働く後姿を身近に見て育った私には、理解の外なのだ。

 

ところで、早朝五時前に築地に出勤する黒ネコの自転車を、もの凄い勢いで追い抜いて行く自転車がある。つば広帽子にサブリナパンツ姿の女性だ。晴海から月島に渡る黎明橋の急な登り坂をスイスイ。「何くそっ」とペダルに力を込めるが、どんどん離されていく。「ちぇっ」電動自転車だ。そうだった、電動自転車もキャナリーゼの必需品だったと思い出した。でも、こんな朝早く、築地にキャナリーゼが出勤?

 

ちなみに、キャナリーゼと呼ばれるのが不満な人には、(運河にかけ)ウンガーという別称もあるらしい。

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