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黒川 春男

築地の風景

by 築地本店店長、黒川春男

2006 10 20

半月前、昼休みにいつも立ち寄る本屋さんの新刊本コーナーである本に引きつけられました。為末大の『インベストメント・ハードラー』帯封に、初期投資30万円が2千万円に増えた話、とあります。ひょっとして、あの世界陸上ハードルで銅メダルを獲得した為末選手かなと本をめくると、その通りで、しかもタイへの投資とあります。本屋の若女将は、彼が株の世界ではちょっとした有名人であると先刻承知の上ようで、「あら、いよいよ投資家の仲間入りかしら」とおちょくられながらも、早速購入。

 

本の内容は、トレーニングで滞在したタイで、有る人物との幸運が出会いがあって、その人物の経営する投資会社に投資して成功していくいお話なんですが、私が目から鱗になったのは、タイの新興市場に投資するという発想でした。日本の銀行が雀の涙程度の超低金利が長く続いている間、バーツで定期預金をするのもいいかなと考えて事もありましたが、株価の安い、これから成長が望めるタイの株式に投資するという発想は、まったく頭に浮かばなかったからです。

 

インターネットで二・三冊のタイ投資に関する本を検索して、本屋さんへ。今度は、若旦那が、にやにやしながら「金儲け独り占めすんなよ」に皆、大笑い。数日して本が届き、その日から二日間、わくわくしながら難解な専門用語と格闘しつつ、なんとか読み終えた三日目の朝、いつもの様に店への出勤途中に寄るコンビニに入るなり、並べられた新聞の第一面は、どの新聞も『タイでクーデター、首都制圧』の文字。絶句しました。

 

以前、アジア通貨危機で、タイ経済はメチャクチャになりましたが、あの悪夢が再び怒ったのです。もちろん、実際に投資した訳でもなく、被害はゼロですが、何かがパチンとはじけた気分になりました。少しへこみました。因みに、参考書代四千五百八十円は無駄銭となりました。

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