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築地の風景
by 築地本店店長、黒川春男
2005 年6 月17 日
今回は築地を離れてのお話をします。
先月のある日、築地が休市の水曜日に地下鉄日比谷線を北に十駅程足を延ばすと、何の変哲もない駅前商店街にたどり着く。
そしてしばらく歩き、とある何気ない四階建てビルの活水料理店が今回の試食会の会場でした。
ひかえめな神庭がなければここがその店とは思えず、入るのをためらう構えの店でした。
しかし一歩足を踏み入れると別空間が広がる。いわゆる隠れ家的店だった。
奥の十畳ほどの座敷に通されると、まず目に飛び込んできたのが隅々に意匠された根付きの孟宗竹、
そしてその瑞々しい青だけにあけられた穴にいけられた山野草の花。
あたりを青竹の薫香がただよう。かといって、ただずまいはさりげなく品がいい。
客席の四卓が向き合い、それぞれに三名が収まる。
各々の卓の上には青竹の折敷の上に青竹のビアマグ、青竹の酒盃、そして箸置きまで青竹で配されてある。
下座の一回り大きな支度机に下ごしらえした食材が次々と運ばれてきて、
それを更に板長が手を加え、清汁と先付けが客に供される。その後、酒がつがれ竹づくしの宴が始まった。
驚きと発見のある料理の数々が続き、若竹ずしと止め腕で献立が終了する。あっという間の三時間だった。
献立に酔い、美酒に酔ったが、なによりも板長みずから手造りしたという竹の趣向に酔った。
客の一人の女性からこんな大量の青竹の出所を訊かれ、板長が答えるには、
世田谷区に住むこの店のお客様の竹林から切り出したそうである。
東京ドームの三倍の広さの竹林だそうで、どうぞ好きなだけと言われたそうだ。
ただ同然でというのが本当かどうか判らぬが生の青竹をこんな小粋な小道具に仕立て上げる意気込みと技がさえている。
なにしろ、その情熱は開店当初の豆腐の味にあきたらず工場までつくった程ですから。
あちらに旨い戸評判の豆腐があると聞くと、今でも足を運び、買ってきては試食し続けているのですから言わずもがなです。
この試食会、会費一万円で飲み放題につられた訳ではないのですが、熱心な常連の末席に連なるにせよ、
この十二名の一員に加えられたという優越感は心地よいものでした。
都合で来られなかったメンバーに代わって飛び入り参加した女性は特に舞い上がっていらっしゃいましたが、
やがてこの人達の口コミで更なる熱心な常連を迎えるであろうと容易に想像が付きます。
いわば店を惚れ込ませるマジックといったものを感じさせました。
都心から程々の距離にとどまり、地代の安くて営業日数も多い地元に、特別な日、
特別な人との食事を楽しむこんな店があってもいいのではないでしょうか。
店を去るときに手渡された土産の折り詰めをに帰り着くなり広げ、
今夜のなのしかった宴を思い出しながら、話に花を咲かせるんでしょうね、きっと私の様に。