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築地の風景
by 築地本店店長、黒川春男
2019 年4 月26 日
毎度、私事の湿っぽい話ばかりで恐縮ですが、一月末に鳥取に帰省した。父が危ないからと。三月二十一日の春分の日に、再び、父の様態悪化との知らせが。朝一番全日空で鳥取空港へ。即病院へ。危篤状態は脱し、翌日も翌々日もベッドサイドモニタの数値は安定していた。顔色も良くなったことだしと翌日曜日に新幹線で帰京。翌月曜日の早朝、出勤しようとマンションを出た途端、携帯の着信音。「五時五分だったけぇ」。通夜は明日、告別式は明後日と決まり、火曜日の昼前に早退して、新幹線で再び鳥取へ。飛行機はやめた。五日前の早朝便、羽田から出発時、強風で伊丹空港に緊急着陸かもと予告。案の定、鳥取空港上空で幾度も旋回した後、厚い雲海に突入。機体は左右上下にガタガタと大揺れ。生きた心地もしなかった。
四時過ぎ倉吉到着。そのまま。葬儀会館へ。上の妹がすべて手配していた。家族葬に。岡山の父の姉の家族葬に参列して、香典、献花辞退。ゆったり親族と故人を偲ぶスタイルが良かったから。お通夜も宿泊も出来る真新しい施設。久しぶりに会う親族ばかり。料理が運ばれ、お通夜が始まる。冷蔵庫には、お酒が満杯。持ち込み可だそうで、私用の赤白ワインまで、気が利くねぇ。「酒好きだった父は気に入ってくれるだけぇ」と献杯して酒盛りは始まった。
翌日、起床した時、後頭部に痛みが。手を当てると何やら貼ってある。おぼろげな記憶に焼酎を飲んだのを。三センチ四方のキズパッドは剥がせそうにも、髪の毛がびっちりこびりついている。「剥がすと出血するだけぇ」とにたにた笑う妹達。苦々しい顔の姪っ子が睨んでいた。トイレで滑って、トイレの外の棚の上に置いてあった姪っ子の芸大卒業作品の真っ赤なオブジェの突起に頭をぶつけたらしい。黒い髪に白いキズパッド、目立たないはずがない。恥ずかしい、情けない。喪服を着て開場へ。「どうしたの? 一夜にして禿げたの?」、「やる気スイッチだものねぇ」と指で押す。「痛てっ!!」。酒盛りの一人も階段四段上から落ちたと、大笑い。
告別式、出棺、火葬、会食、再び会館へ戻り、四十九日の取越法要終了。私はあと一泊を予定してたが、まだ特急はくと十号に間に合う。喪服を着替えて、倉吉駅に送ってもらう。あんな醜態を晒し、これ以上迷惑をかけられないと思ったのが本音だった。