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黒川 春男

築地の風景

by 築地本店店長、黒川春男

2019 22

三寒四温を繰り返し、やがて暖かな春がやって来るのか。春が待ち遠しい。

毎度、私事で恐縮ですが、先月十八日の月曜日、緊急入院となりました。数日前から、立ち仕事をしていると腰上の背中が痛かった。その朝、洗面台の鏡に写る顔色が青白い。手先も異様に白く感覚がない。職場の皆が、病気なんじゃないと言う。心配になり、歩いて五分の築地クリニックへ。先生「何か心当たり有りますか?」。「ちょっと前、赤ワインを何度も吐いて、ふらついた事が。吐血じゃないですよね、赤ワインの色だから。でもずっと真っ黒い便が続いています」と正直に話す。有無を言わさず、「紹介状を書きますから、すぐ行って受診して」。紹介状は東京慈恵病院消化器内科担当医様宛だった。

西新橋の病院へタクシーで向かう。外来受付で一時間、消化器科の待ち時間は三時間近く。さすが有名大学病院、受診待ちの人がひしめく。やっと受診番号が電光掲示板に。若い女医さんが検診終わってないのに、「入院ですね」。心の準備が出来ぬまま、CTスキャン、レントゲン、心電図と次から次へ。歩けるのに車椅子に乗せられ連れ回される。そして最後に内視鏡検査室へ。検査同意書にサイン。検査室にはずらりとベッド。殺気立ち、医師、看護師が動き回る。ベッドにベルトで横向きに固定され、口には拡張バンド。「口を大きく開け」とたんに、喉の奥に何やら液体が吹きかけられる。麻酔薬。腕も注射。すーっと意識を失う。

気がつけば病室のベッドの上。ベッドの脇の点滴スタンドから垂れ下がるチューブが両脇に固定されていた。事ここに至る。一週間、このスタンド引きずって移動なのだ。胃潰瘍の出血からの貧血なので、通常点滴の外に鉄剤の点滴も。入院当日とその翌日は病院食なし。お茶かお水のみ。やっと三日目の朝から食事。運ばれてきたのは重湯(米粒なしののり状汁)と具なしの味噌汁、ヨーグルト。腹が鳴る。日が経つにつれ、三分粥、五分粥、全粥と前進。副菜も品数が増える。糖尿病予備軍の私は、お米は茶碗三分の一を続けて来たのですが、ひもじさに負け、粥二百五十グラムをペロリ。お米がこんなに旨かったと、あらためて実感する。

ところで、入院生活は暇つぶしとの戦いなのだ。朝、六時半まで病室でじっと我慢。そっと起きて、歯磨き、髭剃り。熱湯に浸したタオルで寝癖を直し、自前のカップを持ってデイルームへ。無料の給茶器サーバーで熱いお茶を入れる。目前にそびえる巨大な東京タワーと深い森に囲まれた増上寺の伽藍がブラボー。七時を過ぎるとエレベーターで一階のローソンへ。新聞と雑誌を買い、又デイルームに戻って読書。朝めし終え、シャワー室へ。つまらないテレビを見て、昼めしを終えると八階の売店で文庫本を物色し、一階地下カフェで読書。そして病院探索。夜食を終え、テレビ。就寝。こんな毎日を五日間過ごし、六日目、二度目の内視鏡検査。七日目、主治医、ピロリ菌完治しましょうと十日後の予約表をもらい退院。入院診療費の額に貧血がぶり返しそうだった。さすが天下の慈恵病院様。

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