２０１８ 年８ 月３１ 日

暑すぎて外出は近場だけだったが、今日は渋谷へ遠出。渋谷ヒカリエの最上階にあるミュージカルや音楽劇をラインナップする劇場「東急シアターオーブ」でミュージカル「エビータ」を観るのだ。半年前から、うちのやつがチケットを買っていた。今日の公演はロンドンオリジナル版が初来日。オールキャスト外国人で、つまり台詞は英語のみ。アルゼンチン大統領夫人として「エビータ」の愛称で国民に慕われた実在の女性の三十三年の人生を描いたミュージカル。「オペラ座の怪人」、「キャッツ」、「ジーザスクライスト・スーパースター」、「サンセット大通り」と大成功を収めた作曲家アンドルー・ロイ・ウェバーの最高傑作。 　

田舎の底なし沼の生活から、首都ブエノスアイレスへ脱出したエヴァ。彼女にまとわりついて、劇の進行を案内するチェ・ゲバラ。エヴァとチェ・ゲバラが実際に接点があったとの史実はないが、そこは魅力的なフィクション。男から男へと渡り歩いた末、あるラジオ番組に出演したことを機に一躍有名になるエヴァ。やがて陸軍大佐として当時の軍事政権を動かしていたホワン・ペロンと運命的な出会いを果たす。 エヴァは大佐に急接近し、成功を勝ち取りたいという野心的な二人はたちまち恋に落ちた。ともに戦略を練り政治活動を繰り広げる二人は結婚し、労働者層に絶大なる支持を得ていく。そしてペロン大佐は民衆の心をつかんで大統領選に圧勝。エヴァはファーストレディに。

チェを演じるラミン・カリムルーが歌い終わる度に、二、三階席からウォーと拍手喝采。幕間の休憩時に、「チェをやっている人って何者なの？」と訊くと、「何ですって、ラミン知らないの！！」と呆れ顔のうちのやつ。プログラムを読むと、この人こそ、この日本公演の看板歌手、俳優だった。

大統領就任式、大統領官邸のバルコニーから何万という支持者に歌いかけるエヴァの「アルゼンチンよ泣かないで」で興奮は最高潮に達した。エビータ役のエマ・キングストンの目の覚める様な歌唱力にほれぼれする。実際のエビータの映像やプロパガンダアートをふんだんに使った演出も冴えている。舞台両脇の字幕を見ながらは、かなり忙がしかったが、次から次へと展開する豊かな旋律やハーモニーが舞台下のオーケストラピットから湧き上がってくる。中央で指揮者がタクトを振る生演奏はガンガン身体に響く。特に一階席三列目だったので、音の渦の中に居る様。

女が政治に介入するなとの圧力にもめげず、慈善活動にのめり込むエヴァ。実はエヴァは自分の命がもう長くない（子宮がん）と知っていた。「私は時間の長さではなく、その輝きを選んだ」と声を振り絞って歌う。そして３３年の激しく短い人生の幕を閉じる。あっという間の二時間半。カーテンコールは十数回続く。観客全員立ち上がり、ウォーという歓声と割れんばかりの大拍手。黒ネコの手も真っ赤になった。

いま一つ物足りない日常から数時間解放される。そんな贈り物をしてくれたうちのやつにチケット代一名一万三千円以上のお返ししようと銀座に戻る。数寄屋橋東急プラザのレストラン街に向かう。「エビータ」つながりで、スペインバルへ。漁師のパエリヤが旨そう。客は皆無。「二人です」、「うちは二時間制限なのですけど宜しいですか」。ウッと言葉に詰まり退散。行列の出来る店とも思えないが。近くのなじみのビアホールへ。ホッとする。