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築地の風景
by 築地本店店長、黒川春男
2017 年12 月29 日
先週の勤労感謝の休日、ハケで掃いた様な巻雲が浮かぶ青空。まさに秋日和。上野の山へ。上野の森美術館で「恐い絵」展をやっている。ドイツ文学者、中野京子氏が十年前に出版した「恐い絵」シリーズは、「恐怖」をキーワードに、西洋美術史に登場する様々な名画の場面を読み解き、隠されたストーリーを魅力的に伝える本としてベストセラーになる。美術書として異例の売上げ。そしてついに展覧会までこぎつけた。
黒ネコもその作家の本は何冊か読みました。本に登場した絵が約八十点、世界中から集結した。有名な作家より、馴染みのない作家の作品が多い。この展覧会の目玉作品、美術館の正面玄関の上の垂れ幕の絵「レディジェーン・グレイの処刑」。ロンドン・ナショナル・ギャラリ一番の人気作。この絵を見るために、年間六百万人が来館するとか。半年貸すと三百万人が見られない。これに代わる何かを我々に提示できるかと日本への貸し出しを一度は断ったらしい。
さてこの作品、六度も結婚して二人の妃を処刑したヘンリー八世の王位継承権を持つ四番目のジェーングレイが二位のメアリ(ブラッディ、血まみれのメアリ)に処刑される場面なのだ。ちなみに三位がエリサベス(後のエリザベス一世)。たった九日間の王座から処刑場へ。目隠しされた白いドレスの十六歳の元女王は前方の首置き台を手探りしている。その隣りに、斧を持った首切り執行人がその時を待つ、その瞬間の絵。三メーター四方の大作。この元女王が、ここに至る背景を知れば、怖さも倍増。
との予備知識を頭に入れてやってきたが、上野の森美術館に近づくと、何百メートルも続く長蛇の列。最後尾のプラカードを持った係員は、清水観音堂のあたりに。待ち時間三時間は確実。まして館内は身動き取れない。絵の解説を読んで恐いがキーポイントなのに解説に近づけやしないだろう。ネットの混雑情報を調べて、開館時間、夜八時まで延長したことだし、また来ようと去る。
秋空に誘われ最終日曜日にお台場へ。有明で下車して、お台場へ。いつものカフェ、そしていつもの本屋丸善へ。レジの脇に中野京子さんの特設コーナーが。買ってなかった新恐い絵とあの展覧会用のミニカタログ版をゲット。レジの女性「すごい人気なんですって、いかれました」、「長い列に怖れをなしてやめました」。いつもの権八へ。いつもの天そば、いまひとつ。「体調がわるいからよ」、「そうかな」。どどどっと、KOREAの横文字の入ったパーカーの一団到着。慌てて店を出る。