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築地の風景
by 築地本店店長、黒川春男
2017 年12 月1 日
先月30日昼休憩に横断歩道の信号待ちをしていると、後ろのサラリーマンの一人が「今日は木枯し一号が吹くんですって」と言う。その途端に、ばっちりの演出。ピューと北風が通り過ぎ、街路樹から枯葉が一斉に舞い散る。
ところで先月の最終水曜日休市の日にタンゴのコンサートへ。うちのやつに一万円の入場券をプレゼントされる。なにか怪しい。東急東横線都立大学駅を出て、目黒通りを渡り、柿の木坂を直進し天神坂を登ると、めぐろパーシモン(柿の木)ホールへ。十一時三十分開場、十二時開演。どうも女性陣が多いというか、ほどんど。ホールに入り、ワインとおつまみを食べる。
ずらっと並ぶ花輪の列。姿月あさとさんへ、真琴つばささんへ、水夏希さんへ。これって宝塚のスターの名じゃないか。かつて宝塚ファンだったうちのやつ。宝塚歌劇団のタンゴだったのかと興が醒める。やられた。しかしパンフレットにアルベルト城間、篠井英介、渡部えり、久野綾希子、クミコの名も。 やがて幕が開き、オーケストラ十一名が。ピアノ、バンドネオン三名、アコーディオン、バイオリン三名、ビオラ、チェロ、コントラバス各一名。演奏開始。バンドネオンが歯切れ良く、タッタッタッとタンゴ独特の旋律がうなる。またまくまに、ブエノスアイレスの下町に没入する。
やがてアルゼンチンから来日した世界最高の男性タンゴダンサーと元宝塚の名ダンサー三組の小気味いい足さばきにうっとり。アルベルト城間の歌から始まり、ダンスをはさんで入れ替わり立ち替わりのソロ。NHKの懐かしのメロディー調もあり、昔聞き覚えたタンゴの名曲あり、初めての曲もあり。ミュージカルエビータの「アルゼンチンよ、泣かないで」にぐっとくる。三十七場が休憩二十分をはさんで、三時間の長丁場。
この前の芝居見物では腰が悲鳴をあげたが、今回は身体全体でリズムを取ってたのか、無事終了。終盤に渡辺えりが豊満な肉体に白いスパンコールのドレスで登場。お笑いかと思いきやタンゴを歌う。えっと思う程うまい。劇作家、演出家、女優のキャリアより歌手が二重丸。舞台をさらう。音楽の生演奏は、すっかり日常のしがらみを忘れる特効薬。リフレッシュ効果てき面なり。ノリノリの黒ネコに、「銀座にダンス教室あるわよ」、「まさか」と言ったが、まんざらでもない。