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築地の風景
by 築地本店店長、黒川春男
2015 年7 月24 日
梅雨鬱気分。外出も減り、身体がなまっちまうと、よしゃっとばっかり、上野公園の都美術館へ。大英博物館展をやっている。あと一週間で閉展。四月からやっていたが、二の足を踏んでいた。
開催と同時に、書店で売っていた「百のモノが語る世界の歴史」三巻の第一巻を買った。かつて地球上の土地六分の一を支配した、大英帝国が集めた(強奪)八百万点のコレクションから百点を選んで(二百万年前の打製石器から現代のクレジットカードまで)、世界の歴史の断片を語りかけますとある。この本を読み始めて、とたんにうんざりした。百点それぞれの膨大な専門的な解析と蘊蓄を傾けた長文の来歴に怖じ気づいたのだ。
ちゃんと読んだのは、日本からの一品の「縄文の壺」の三百分の八ページ。こうある。世界で最初の壺は日本で作られた。ギェーツ!! すでに一万年経た伝統の中で約七千年前に作られたのが、この作品。子供が浜辺で遊ぶバケツくらいの大きさ。粘土でとぐろを巻く様に形成され、外側から繊維が押しつけられ籠の様に見える。いわゆる縄目文様。うんぬん・・・。ゴミ収集箱の脇に捨てられていてもおかしくない。
こんな一品の内側に、漆を塗って金箔を押させた。茶道の水差しとして。江戸時代の数寄人が、新たな生命を与えた。全三巻、千ページを読破しない限り、展示品全てを理解できない。億劫なり。で見学を諦めていたが、どうもあの縄文の壺が気になり、入場料、一般人、金千六百円を払い入場となった。
さすがに終盤に近づき、混雑している。百点全部に神経集中なんてとてもとても。めぼしい柿右衛門の象、アフリカ、イフェの女性頭像、デューラーの「さい」、そしてありました、「縄文の壺」。事前の知識がなければ、あっさり通り過ぎる程のオーラのなさ。茶会で、来客者の度肝を抜いた姿を想像するだけで、笑えてくる。
強奪まがいに世界中から集められたコレクション。イギリス人自身も別名「泥棒博物館」と嘲っているとか。しかし、いまや、イスラム国が、シリアの世界遺産パルミラに地雷を埋めたというニュースが流れる。こんな事態を考えると、ロンドンに運ばれたのは、幸いなのかも。
ところで、島根県の松江城が国宝になった。築城の際の奉納された二枚の祈祷札が見つかり、慶長十六年に城が完成したことが裏付けられたからだそうだ。うれしいにゃん。悲しいニュースも。和歌山電鉄の貴志駅の駅長「たま」が死去。猫の命は短くて、十六歳は人間では八十歳の高齢だった。社葬に約三千人が参列したとか。かなしいにゃん。冥福を祈ります。