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黒川 春男

築地の風景

by 築地本店店長、黒川春男

2012 18

今日も一ト月遡った様な肌寒い金曜日、仕事を終え東京駅に向かう。明日の土曜日に休みをもらい、新幹線で京都へ。姪っ子の結婚式。駅弁を食べながら、ぎりぎりの一日前に出来上がった部分入れ歯がやっとしっくりして来た。今年正月に京都であった時、姪っ子から、「結婚式には、抜けた歯を入れてきてね」と念を押されていた。

 

結婚式場から歩いて五分のホテルにチェックイン。夜の京都を徘徊して一人で食事もなんだかと、四条河原町高島屋の地下フードコートに引き込まれた。閉店間際の値引きタイム。菊の井の惣菜がパック二割引、チーズとワインを買ってホテルで一人酒。

 

築地人の習性で早朝に目覚める。たっぷり時間をかけて京都駅へ歩く。一族郎党がスーパーはくとでやって来た。烏丸御池のホテル隣りの伊衛門サロンで昼食を取り、バタバタと礼服に着替える。歩いて式場へ。小さな結婚式という名の式場。全国に十五店舗を展開する少人数格安ウエディングが売りらしい。

 

江戸期の呉服屋さんを改装した風格ある外観。一階軒下に張り巡らせた祝幕をくぐると内は、明るい和モダンのテイスト。天井に渡る梁がいい味出してます。チャペルは蔵を改装。両家合わせて二十人程にはぴったりのサイズ。牧師さんが式を進める。先ず新郎登場。ガチガチに緊張。やがて父親に伴われ新婦登場。まったくリラックス。身内だけのせいか、和気あいあいで笑いが飛び交う。

 

記念写真を撮りまくり、一旦外に出て、並びの棟の「オステリア蒼」へ。一階の格子窓、漆喰で塗り込められた二階の窓。入口を入ると梁が組み合う吹き抜けの天井。窓の外は、枯山水の庭。京都町屋のエッセンスがすべてある。一般客の席をすり抜け急な階段を上ると、畳敷き間に卓と椅子の宴会場。乾杯の雄叫びが終わり、フレンチのコースが始まる。アミューズだったかオードブルで出てきたのか曖昧なのだが、フォアグラを廻りの四人から強奪して平らげた。絶品。鱈腹食べたのに二次会へ。

 

熊本天草出身の新郎の趣向なのか、熊本料理居酒屋さんへ。ちびりちびり各自飲んでいたのを見た新郎の父ちゃん、「一升瓶なかと!! こんちゃか馬刺、てんこ盛りせんばい!!」、九州男子は底抜け上戸揃い。気が合えば一気に距離が縮む。しかし、いつの間にか熊本弁一色となり、解読不能。あとは朧、記憶ナシ。まるで旧家に招かれた内輪の披露宴と食事。面識のない人々が大勢集う余所余所しい場ではなく、アットホームな結婚式に大満足。

 

挙式の貸衣装、着付、メイク、祇園の街に出て金ピカの和装姿の二人をプロのカメラマンに記念写真を撮ってもらうサービス、そしてフレンチのコース料理すべてを含め、五十万円以内に収まったらしい。安っぽくなく、良心的な値段。節約志向の現代っ子には打って付けだ。ブーケ、引き出物など手作りして、更に切り詰めたらしい。「いい嫁さんに、なるだらーな」と目を細めた。 

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