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黒川 春男

築地の風景

 

 

 

by 築地本店店長、黒川春男

 

 

201020

 

猛暑、酷暑、日本熱島は煮えたぎっています。田舎から塩ラッキョが送られてきた。その箱の中に、一般用糖尿検査薬なるものが入っていた。尾籠な話ながら、自分で試験紙にオシッコをかける代物である。余計なお世話とほったらかしにしていたが、田舎から「どうだった?」の再三の電話に、渋々と試してみた。「ゲッ!!」、薬のケースの色調表と較べると「尿糖が少し検出されました」との薄緑色にあてはまった。「医師にご相談下さい」とも。糖尿病だった母親を考えれば当然な結果だが、こうはっきりすると、正直、うろたえた。

 

翌日、仕事から帰るとテーブルの上に一冊の本が。「満腹ダイエット」のタイトル。糖尿病の食事療法である糖質制限食がダイエットに極めて有効、しかも、飲ん兵衛の方がうまくいく。晩酌に、あるいは居酒屋でちょっと一杯やりながらでもダイエット出来ると書いてある。

 

やがて、その本に紹介された実用レシピそのままの料理がテーブルの上に。マグロアボガド、ゆで卵とブロッコリーのサラダ、鶏肉のチーズのせグリル。「これがダイエット食なの!!」、ボリューム満点だ。しかし御飯はなし。糖質たっぷりの炭水化物は控えて、肉や卵、魚、豆腐などを中心に糖質低めの野菜を添えるメニューを食べれば、それでOKらしい、と内の奴がのたまう。

 

日本酒、ビールは糖質0ならOK。焼酎、ウイスキーOK、赤ワインはぎりぎりセーフ。秘かな食事療法が進行する中、突然、市場の休みに、箱根芦ノ湖温泉へ一泊旅行となった。

 

行きの車の中で、「実は糖質ダイエット中なので、食べられない物があるんで」と告白。「一泊二日位、食べたって平気よ!!」と、ばっさり却下。

 

宿に着くや、抹茶と落雁が振る舞われた。ためらわずに干菓子を飲み込む私に、一同、突然笑いだし、「何食べてんの!!」。「アッ、しまった!!」。甘い菓子は口の中ですでに溶けていた。糖質一日の目安、六十グラムの内、一食分を消費してしまった。 平日だからなのか宿泊客は見当たらず、貸し切り状態。単純硫黄泉の露天風呂を浴び、水のせせらぎだけが聴こえる庭で涼んだ後、夕食となる。

 

部屋に運ばれる季節の京風懐石。皆でビールで乾杯といきたいが、私は、若い仲居さんに心付けをはずみ、見逃してもらった赤ワインを。部屋出しなのに、温かい物は温かいまま、冷たい物は冷たいまま、繊細な料理の数々が出そろった。黒ネコの薄手の超小振りな飯椀には、意地悪されて、ほんの一摘みの艶々した白御飯。誘惑に負け、その一摘みを味を確認しながら噛み締める。漫然と食べていた御飯がこんなに美味しいとは。

 

木々の間から、芦ノ湖を垣間見る事の出来る高台の部屋には涼しい風が吹き込み、エアコン無しで眠りについた。ちなみに、ふもとの小田原でお土産に買った蒲鉾は糖質が多いので、私は、一切れだけを噛み締めるしかない。

 

 

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