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黒川 春男

築地の風景

 

 

 

by 築地本店店長、黒川春男

 

 

200513

 

毎年この季節になると先輩の板前さんに引率されたピカピカの新卒見習い調理師さん達の 一群が築地に出現します。全員が新調の白衣と白帽に身をかため、 白衣の胸に染め抜かれた大型すしチェーン店の青い店名がまぶしいくらいです。 緊張と不安で紅潮したまだあどけなさの抜けきらない顔つきを見ると ほほえましさ、なつかしさを覚えます。そんなある日の店での会話です。

昨今流行のモダンで凝った内装の立ち飲み屋さんの仕入主任Mさんが気色ばんで店に入ってくるなり。 Mさん「これ、ひどいっしょ!!」と手にした週刊誌のあるページを広げる。 タイトルは『今週の覆面食味探検隊 切り捨て御免!』。

Mさん「訴えてやる!! ここ、この部分。」と更に記事のある分を指さす。

『二階はテーブル席。二階が空いていても、立ち飲み客が一階にたむろする。 窮屈なのだがこの狭さが、皆が、いや私が求めていたものかもしれない。 おねえちゃんにセクハラ疑惑をかけられることもなく、知らん顔して接近できる。 この距離感が心地よいのだが・・・』

Mさん「ね、ここ、まるでこれがウチの店の売りみたいしょ!! ふざけんなっちゅうの!!」

私は頷きながら「ふざけてますねぇ・・・でも総合評価は84点もあるじゃないですか。 料理・雰囲気・サービス・コストパフォーマンス・他店にない特徴、全部いい点数じゃないですか。 ほめてんですよ。」

Mさん「ちっともうれしくないっの。電話で文句の一つも言ってやらなきゃ気が済まないや!!」 と怒りは納まりそうにありません。

Mさんが本気で怒っている姿を見て、Mさんがどんなに仕事を店を一所懸命に愛しているのか判りました。 我ながら自分の鈍感さに反省です。そして思い出しました。半年前のこの週刊誌の同じコラムで他の伏高のお客様が さんざんに切り捨て御免にされていた事を。

超有名店の六本木店の店長Oさんは若い人に妙にありがちな気負いもなく好人物なのですが、 その記事では、腰が低すぎるとばっさり切り捨てです。

私も一度お店に伺い料理を堪能しました。コース最後に出された土鍋で炊きあげたタイの炊き込みご飯が食べ切れず、 おにぎりのおみやとなりました。そしてOさんは本店からのしきたり通り、 店の外まで出てきて私達を見送っていただき、心地よく家路に着きました。

ものは言いようで、その記事には「料理の品数が多すぎる。食事の前に嫌いな食材を訊かれたが意味がない。 外の客そっちのけで見送りしている場合じゃないんじゃないの」とまるでいいがかりです。 あたなは何様、ヨン様かと言いたくなりました。その時その記者の虫の居所が悪かったとしか思えないひどい記事でした。 少なくとも公平ではないですね。この手の取材は誉め上げるかけなすか読者に媚びて何ぼのものですから。

そう言えばMさんとOさん同じアパートのお隣さん同士でした。ウチの店先でばったり。 「えっ、知り合いですか?」と私は驚いたものです。

私が「Oさんの店はもっとぼろくそでしたよ、Mさん」とこの話を詳しくすると・・・ Mさん驚いて「Oさん、やられたんだ。ガイガー計数管でもあるまいし、 旨い不味いが判断できるかってぇの・・・そう、やられたんだ。」としばらく沈黙。

Mさん「ひさし振りに一杯誘ってやっか、今夜あたり」とさっきの怒りは消え、 仲のいい戦友をいたわるかの様な穏やかな素顔に戻りました。 持つべき物は友だとこちらまで嬉しくなりました。戦友に乾杯!

 

 

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